海外編

セレブの普段着として人気を獲得したバンドＴシャツ

海外の有名人の普段着として愛用されたバンドＴシャツは、今や音楽的志向や自分の個性を表現するためのツールとなりメディアの前に登場するときや舞台に立つときの衣装としても活用されています。

例えば、90年代までは黒人アーティストが白人色の強いヘヴィメタルのＴシャツを着るなど考えられなかったことですが、今ではカニエ・ウエストやスヌープ・ドッグなどのHipHopアーティストが「ソッチの音楽も押さえてるぜ」と言わんばかりに、こぞってメタル系のＴシャツを着用するようになりました。

ロック関連リメイクブランドの台頭

1998年設立のJunk Food（ジャンク・フード）、2003年設立のTRUNK(トランク)といったオリジナルバンドTシャツのブランド人気を経て、2013年にJerry Lorenzo（ジェリー ロレンゾ）が立ち上げたヴィンテージバンドTシャツのリメイクブランド、Fear of God（フィア・オブ・ゴッド）の製品がジャスティン・ビーバーやカニエ・ウェストによって着用され、Metallica（メタリカ）Ｔシャツなどの流行を皮切りにバンドＴシャツブームが起こりました。

当店ビートボムのスタッフも一部の商品で関わっている LAのセレブ向けセレクトショップ「MAXFIELD（マックスフィールド）」では行列ができるほどの人気を博し、ロレンゾ自身もジャスティン・ビーバーのステージ衣装を担当するなどの活躍を見せています。また2017年には日本から進出して絶大な人気を博したREADYMADE（レディメイド）といったリメイクブランドとのコラボレーションも話題となりました。

ハイブランドが注目しはじめた音楽関連アートワーク

2000年代に入り、ブランド単独でのグラフィックアートの創出～価値の創造に限界を感じ始めていたファッション業界は、半世紀にも及ぶサブカルチャーの蓄積によって、歴史的デザインの宝庫と化したバンドＴシャツの分野に目を向け始めました。2008年には、マーク・ジェイコブスがSonic Youth（ソニック・ユース）「Goo」のバンドＴをコラボレート商品として販売、NYのSupreme（シュプリーム）や日本のUndercover（アンダーカバー）といったブランドがバンドＴシャツのコラボデザインを発表、2016年には、バーニーズ・ニューヨークでファッションブランド「R13」から、265ドルの Black Flag ロゴTシャツが登場したことでも話題となりました。

世界共通の記号と化したデザイン

バンドＴシャツの中で最も広く認知されたデザイン、Ramones（ラモーンズ）のロゴですが、Ramonesと共同生活状態にあった第五のラモーンと呼ばれた男、アルトゥーロ・ヴェガによるデザインで、Seal of the President of the United States（大統領行政府の紋章）を元に制作されました。またラモーンズはSex Pistols（セックス・ピストルズ）より一足早くパンクロックを広めたＵＳパンクの代表バンドで、パンクロックの開祖とも言われるバンドです。（セックス・ピストルズの仕掛人、マルコム・マクラーレンはラモーンズやテレヴィジョンなどが集っていたパンクの殿堂、ニューヨークのCBGBに立ち寄ってからイギリスでパンクを興しました。）権威あるロゴの由来と音楽史上の重要性の２つを背負ったデザインだからこそ、永遠のロックアイテムとして世界中から人気を獲得したのだと言えます。

トリビアネタの多いクラッシュ関連Tシャツです。Diplo（ディプロ）が着用している Straight To Hell（ストレイト・トゥ・ヘル）Tシャツなど、すでに現行品が生産されていないモデルも多数あるため、気に入った物を見かけたら即買いをお勧めします。クラッシュの公式以外にも、ジョー・ストラマーやメンバーが着用したTシャツの復刻ブートレグが多いのも同バンドの特徴です。

CBGBは、Ramones（ラモーンズ）/Television（テレヴィジョン）/Patti Smith（パティ・スミス）/Blondie（ブロンディ）/Cramps（クランプス）/B-52's（ビー・フィフティートゥーズ）/Joan Jett（ジョーン・ジェット）/Talking Heads（トーキング・ヘッズ）などＵＳパンクロックの誕生の舞台となったニューヨークの歴史的なクラブ（ライブハウス）で、パンク好きのみならず、全てのロックファンのマストアイテムです。Joey Ramone（ジョーイ・ラモーン）が着用していた頃の当時モノのCBGBシャツはフォントが細く、プリント面積も小さめなのが特徴です。

日本のHYSTERIC GLAMOUR（ヒステリック・グラマー）などもモチーフにしている、エログロな絵柄が特徴のCramps（クランプス）は、Misfits（ミスフィッツ）などパンク部門のホラー系アートワークに大きな影響を与えました。CBGBにおいてパンク黎明期に活躍したバンドで、サイコビリーの元祖とも呼ばれており、人気の高いデザインＴが多数あります。

実はアンディ・ウォーホルが直接手掛けたデザインはバナナの１種類しかないのですが、ウォーホルのカラーが随所に感じられるThe Velvet Underground（ヴェルヴェット・アンダーグラウンド）のＴシャツもロックオタクから愛されるアイテムです。特にBDSMの絵柄は、ヴェルヴェッツのバンド名の原点となったMichael Leigh（マイケル・リー）の書籍カバーデザインで、ヴェルヴェッツの公式レコードには一切使用されていないにも関わらず、同バンドの象徴として人気があります。

2トーンロック/SKA関連Tシャツも根強い人気のあるジャンルです。2 Tone Recordsの シンボル Walt（ウォルト）やThe Beatのシンボル Betty（ベティ）などのカトゥーン・キャラクターも存在します。

エド・シーランはセンスの良いチョイスから新世代ミュージシャンの中でも注目の対象で、さりげないカレッジＴからトリビアネタまでシンプルでカッコ良いものをチョイスしています。Flipper（フリッパー）は80年代を中心に活動したサンフランシスコのパンクバンドですが、Ｔシャツデザインとして人気があるのは、Nirvana（ニルヴァーナ）のKurt Cobain（カート・コバーン）がステージ裏で自作した、いわゆる「Cobain Flipper」と呼ばれる絵柄です。

ラモーンズの曲から命名したアメリカン・ハードコアパンクの最重要バンド「Bad Brains」のＴシャツも根強い人気のあるＴシャツです。Ｔシャツを着ているミュージシャンの顔ぶれを見ても、コアな音楽支持層が伺えます。ブラックやHipHop関連のＴシャツは昔からデカデカとしたピクチャープリントを多用する傾向があり、日本人にとって着こなしの難しいアイテムですが、オーバーサイズのものをラフに着るのが基本です。

ビートルズやツェッペリンのようなロック・クラシック部門のＴシャツもまだ根強い人気があります。トリビアの多いジャンルなので、歴史的なロゴやシンボルをうまくチョイスしてゆくとよいでしょう。

アンディ・ウォーホルの作品だと勘違いされがちなストーンズの「ベロ」ですがロンドンのデザイナー、ジョン・パスケのデザインを元にNYのデザイナーが手を入れたものが公式のシンボルとして使用されています。パスケは他にも、ストラングラーズ第２のトレードマーク「カラス」や、ホワイトスネイク、グレッグ・レイク、ポール・マッカートニー、ＵＦＯ、ポール・ハードキャッスル「19」、アート・オブ・ノイズの一連のジャケットなどを手掛けています。

ピンク・フロイドは、ロックＴシャツの中で最もデザインバリエーションの多いバンドで、ベースデザインは、アルバムジャケットでロックに革命を起こし70年代に活躍したアート集団 Hipgnosis（ヒプノシス）によるものです。「プリズム」「握手」「豚」の３つのシンボルがあります。

The Who（ザ・フー）はラウンデル（ターゲット/射的）をトレードマークとするモッズ・ムーブメントの象徴的バンドです。Mods（モッズ）ムーブメントに無関心な米国人と、モッズが大好きな日本人＆本場英国人とで着こなし方にも大きな違いがみられます。KISSのＴシャツはストーンズと並ぶ永遠の人気アイテムです。

The Stone Roses（ストーン・ローゼズ）は1940年代～50年代に活躍した「アクション・ペインティング」の代表的な画家ジャクソン・ポロックの作品を真似てギタリストのジョン・スクワイアが描いた絵が基本で、1stアルバムのジャケットに使用されたレモンも同バンドのシンボルとなっています。

有名な「ニルヴァーナ・スマイリー」は、Kurt Cobain（カート・コバーン）の落書きが元となっていますが、そのモチーフについてはアクセル・ローズの顔/シアトルのストリップバーの看板/アシッド・ハウスのスマイリーなど諸説あります。他にもTAM（透明解剖マネキン）をベースにしたIn Uter（イン・ユーテロ）のジャケットデザインや、カートが故郷のアバディーン公立図書館で見つけたダンテの「神曲」 地獄篇(インフェルノ)に登場する地獄図など、トリビアが満載なニルヴァーナＴシャツは今も根強い人気があります。

そのニルヴァーナの先輩格、Sonic Youth（ソニック・ユース）のＴシャツは、カートをはじめとしたニルヴァーナメンバーも愛用していたことで知られています。特にカートがウィリアム・S・バロウズ宅を訪問した際に着用したソニック・ユースとHYSTERIC GLAMOUR（ヒステリック・グラマー）のコラボＴシャツ「無敵戦隊ソニックユース」は一度復刻版がリリースされたものの生産を終了しているため、ヴィンテージ品が高値で取引されています。Beastie Boys（ビースティー・ボーイズ）のマイクＤが創設に関わった「XLARGE(エクストララージ)」とソニック・ユースのキム・ゴードンが関わったレディス版「X-girl(エックスガール)」は90年代に人気のあったストリートブランドでした。

ニルヴァーナと同時代で対局にあったLAメタル系の代表格ガンズ・アンド・ローゼズのＴシャツも近年人気のあるアイテムです。1stアルバム「Appetite For Destruction」に描かれたクロス柄、シングル「Welcome To The Jungle」に描かれたバレット（弾丸）の絵柄を基本として多くのバリエーションがあります。

2000年以降にはバンドＴシャツは映画の中のちょっとした小物として使われるようになり、映画「トランスフォーマー」ではシャイア・ラブーフがThe Strokes（ストロークス）のバンドＴシャツを着て、Misfits（ミスフィッツ）のポスターを壁に貼る等身大の高校生を演じました。

Taylor Swift（テイラー・スウィフト）のＴシャツをライブで着用したThe 1975に対して、テイラーがアンサーとしてThe 1975のＴシャツを着て登場するなど、バンドＴシャツをミュージシャンの間のコミュニケーションとして用いるケースも増えています。

国内編

90年代からの日本のＴシャツ番長としてまず挙がるのが、甲本ヒロトと真島昌利のブルーハーツコンビ。パンクの基本アイテムからスカ系やちょっと入手しにくいアイテムまで、今でも彼らの着用したバンドＴを買い求める人は多く存在します。特にヒロトが着用したMC5（エムシー・ファイブ）とModern Lovers（モダン・ラヴァーズ）、マーシーが着用したジョニー・サンダース「L.A.M.F」のバンドＴシャツは90年代末から人気が出ました。特にヒロト風のTシャツチョイスのコツは、シンボリックなバンドながらロゴだけで美しく見えるシンプルな物を選ぶことです。

日本一面白いミュージシャン、電気グルーヴの着用Ｔシャツは数ある日本の音楽ユニットの中でもヒネリまくったセレクションとなっています。元々はパンクだった彼らの個性が出ていて、80sエレクトロからポストパンクまでカバーし、音楽マニアにしか分からないアイテムも入っています。

Hi-STANDARD 横山健のバンドTシャツは、まさにパンクロッカーの王道！安易にモード系ファッションに走りがちな最近のミュージシャンに是非お手本としてもらいたいセレクションです。Gretsch（グレッチ）のTシャツはお気に入りで複数枚所有されているようです。

90年代のファッション・アイコン、Dragon Ash（ドラゴン・アッシュ）のKJ（降谷 建志）は今でもフォロワーが多く、着用したＴシャツは常に古着市場で高値で売買されています。最近はGuns N' Roses（ガンズ・アンド・ローゼズ）がお気に入りのようで、他にもハード・ロック系のものをよく着用されています。

ONE OK ROCK（ワンオク）のTAKA、三代目 J Soul Brothersは前述の高級リメイクブランドFear of God（フィア・オブ・ゴッド）の製品を着用したことで、日本国内でのMetallica（メタリカ）Ｔシャツの火付け役として知られています。当初はメタリカをブランド名だと思い込んでいた人もいるそうですが、メタリカ以外にもNirvana（ニルヴァーナ）、Ramones（ラモーンズ）など定番ロックＴシャツを主に着用されています。ジャニーズのメンバーはニルヴァーナの着用写真が多く残されています。

2018年3月号のNYLONジャパンでは菅田将暉のBlack Flag（ブラック・フラッグ）Ｔシャツが表紙を飾りました。日本でのパンク系Ｔシャツの人気に拍車がかかるかもしれませんね。日本で一番ニルヴァーナ・スマイリーが似合う子供、完熟フレッシュのレイラちゃんは過去にはメタリカなどのバージョンもありました。奥田民生はPuffy（パフィ）の仕掛人だけあってＴシャツのチョイスには定評がありますが、出来るだけミニマルに抑えた大人向けセンスを貫いています。

世界で最も有名な日本人、メタルギア・ソリッドの小島秀夫は確認出来ただけでも３種類のJoy Division（ジョイ・ディヴィジョン）Ｔシャツを所有、George A. Romero's Dawn of the Dead（ゾンビ）のホラー映画Ｔもサブカル臭を漂わせています。千原せいじはＴＶでもご存知の通り、ミスフィッツＴを着てアフリカまで行ってしまうほどヘビーなバンドＴシャツコレクターですが、ここに全部紹介できないのが残念です。ボブ・ディラン・フリークのみうらじゅんはディランＴシャツを着ているところが見たかったのですが、あいにくピンク・フロイド姿しか入手できませんでした。

AKBグループの面々もバンドTシャツ姿でのショットが２ちゃんねるで収集されています。バンＴを着ると心なしかドヤ顔になってしまうあたりが可愛いですね。おすすめはBlack Flag（ブラック・フラッグ）を着てポーズをキメる昔の西野カナの姿！普段はロック色を感じさせない彼女の素顔が見られます。でんぱ組.incの最上もがはイメージ通りのメタル中心のチョイスでした。Perfumeについては特にのっちがＴシャツにこだわりを見せています。